神戸大学 副学長
近藤 昭彦
『世界がん撲滅サミット2021 in OSAKA』の開催をこころよりお慶び申し上げます。
また本サミットの開催にご尽力された関係者の皆様に深く敬意を表します。
本年度のテーマは「すべてのがんにリベンジを! 今、大阪から世界に広がるがん撲滅への挑戦!」であり、非常に重要なテーマとなっています。がんは日本人の死因の第1位であり国民の約2人に1人ががんに罹患する時代です。 一方、がんに対するサイエンスも近年目覚ましく進展し、それに伴いがん医療に対する新たな治療法や診断技術も日々進化しています。
私がこれまで取り組んできた応用微生物の研究においても、様々な知見が蓄積されてきており、私たちの身近な微生物が発がんに関与するという知見やさらにはがん治療への適応の可能性も高まってきています。私たちの消化管内には約100兆個・1,000種類を超える微生物が存在し腸内細菌叢を形成していることが知られていますが、がんを含む様々な疾患ではこの腸内細菌叢の多様化が減少(dysbiosis)していることがわかってきています。また2015年には腸内細菌の違いによって、がん免疫療法の効果が変わるというマウス実験結果が報告され、「腸内細菌―腫瘍―免疫細胞」という3者の関連が大いに注目されています。2020年日米がん撲滅サミットに始まった「ヒポクラテス・プロジェクト」の取り組みにおいてもこの腸管免疫と微生物に注目した研究活動を推進し、がん予防・治療につなげていくことが掲げられています。
我々日本人は古来より、様々な微生物を利用した発酵技術を生み出し、暮らしに役立つ様々な物質を作り出してきました。最近では、切らないゲノム編集技術やスマートセル技術などによりスーパーエリート微生物を創製することも可能となっています。我々の身近なこれら微生物を大いに活用することにより、がんの予防・治療・診断に貢献し、がん克服から撲滅に向かってさらに前進することが期待されます。またより多く若い研究者も含めた様々立場の方々がこれらの挑戦に取り組まれ、産官学一体となって本サミットの目標であるがん撲滅の実現にむけて前進されることを期待しています。
最後になりますが、本サミットが、がん患者の皆様とご家族、医療関係者とその支援者、さらにはがん研究者の方々にとって実りあるものとなることを祈念して、メッセージとさせていただきます。