大阪大学免疫学フロンティア研究センター・
実験免疫学 特任教授
坂口 志文
新しいがん免疫療法に向けて
『世界がん撲滅サミット2021 in OSAKA』の開催誠におめでとうございます。
がん免疫療法は、現在、新しい時代を迎えようとしています。ここ10年、抗CTLA-4抗体、抗PD-1抗体など、免疫共刺激分子もしくは免疫抑制分子シグナルを調節し抗腫瘍免疫応答を賦活化、強化するがん免疫療法の有効性が示されてきました。今後も、難治性がんに対しても効果的ながん免疫療法が開発され、がん免疫療法は、外科的切除、放射線療法、化学療法に続く第4のがん治療法として確立されていくでしょう。
一方、現在免疫チェックポイント阻害抗体は主として進行がんに使われていますが、将来に向けては、初期がんに対しても使える効果的ながん免疫療法を開発する必要があります。がん免疫療法では、がん細胞を特異的に攻撃するリンパ球が、がん抗原に対して特異的に感作され、活性化、増殖、そしてメモリーを獲得し、がん細胞を持続的に攻撃するのみならず、体内に隠れている、あるいは転移したがん細胞をも攻撃してくれることが期待されます。そのような強いがん免疫応答を惹起するためには、むしろ、体内にがんが見つかり、がんを取り除く前、すなわち、がん抗原が体内に存在する時点から免疫療法を始める方が効果的で、がんの転移の抑制、予防にもつながります。遺伝的にがんを発症しやすい人にも発症予防に使えるでしょう。
このような初期免疫療法の開発には解決すべきいくつかの課題があります。例えば、どのようながんに対しても有効な汎用性、また高い安全性が要求されます。経口での服薬が可能な簡便性も重要ですし、医療経済的には安価である必要があります。がん撲滅に向けて、「がんと診断されたその日から始める免疫療法」が実現できるよう研究を進めたいと思います。
本日のご盛会を心より期待しております。