上野雅資先生(公益財団法人がん研究会有明病院消化器センター 消化器外科 大腸外科部長・大腸がん)

Q、大腸がんの初期症状について教えてください。

A、大腸がんは、腸の内面を覆う粘膜から発生します。このため、大腸がんが大きくなるとがんの表面が崩れて出血し、血便となります。また、大腸の内腔を狭くするほど大きくなると便が出にくくなります。この二つ(血便と排便障害・腹痛)が大腸がんの主な自覚症状です。ただし、このような症状がでるのは、がんがかなり大きくなってからなので、「症状を自覚したら病院で検査しよう。」とは考えないでください。

Q、大腸がんの予防に必要なことについて教えてください。

A、がんの予防には、一次予防と二次予防があります。一次予防は、生活習慣の改善です。大腸がんに有効とされているのは、飲酒の制限や、適度な運動、メタボ対策、偏食を避けて野菜・果物を十分とることなどが有効とされています。二次予防は、検診です。市町村の集団検診では便の潜血検査が行われています。また、とくに大腸がんのリスクが高いと思われるかたは、はじめから大腸内視鏡検査がおすすめです。

Q、大腸がんとわかったときにどのようにすればよいでしょうか。

A、大腸がんが発見されたら、あわてずに専門医の診察を受けましょう。「治らないのではないか」とか、「人工肛門になるのではないか」などと心配かもしれませんが、大腸がんは、かなり進行していても完治しますし、永久人工肛門になるかたは、大腸がん全体のごく一部です。

Q、家族はどのように応援すればよろしいでしょうか。

A、大腸がんと診断された患者本人は、不安な気持ちが大きい一方、家族に負担をかけたくないと思いも強く持っています。口では、「一人でも大丈夫だ、付き添いはいらない。」と言っても、家族がそばにいてくれることより心強いことはありません。このため、本人が大腸がんになったことを受け入れて、病状を理解し、担当医と心が通いあうまでは、そばに付き添ってあげることが、何より大切なことだと思います。

Q、大腸がんの症状にもよると思いますが、先端の外科手術で体に負担の少ない方法は開発されておりますでしょうか。

A、内視鏡治療では、ESD(内視鏡的粘膜剥離術)の普及により、以前は外科手術の対象であった大きな早期がんでも、内視鏡だけで治療できるようになりました。外科治療では、多くの大腸がんが、古典的な開腹手術ではなく、創が小さな腹腔鏡手術で治療できるようになりました。また、化学療法では、抗がん剤の種類が増えたために、複数の薬剤を組み合わせることで、効果的かつ副作用の少ない治療になりつつあります。

Q、入院期間など、どれくらいでしょうか。

A、標準的な入院期間は、内視鏡的治療では、3~4日、外科的切除では10~14日、化学療法では、初回のみ3~4日です。もちろん、術式などの治療内容により多少の長短はあます。

Q、仕事はできますでしょうか。

A、外科手術の場合、仮に人工肛門になったとしても、消化吸収にはほとんど支障はありませんので、仕事に復帰することは十分可能です。化学療法の場合でも、通院はせいぜい2~3週に1回ですので、働きながら治療することが可能です。

Q、手術後の生活や通院はいかがでしょうか。

A、手術後は、再発予防のために3~6か月の補助化学療法を受けるかたと、経過観察だけのかたに分かれます。経過観察は、せいぜい3~6月ごとの検査なので、普段の生活への負担はほとんどありません。補助化学療法のかたは、その期間は、2~3週ごとに通院していただくことになり、多少負担があります。

Q、早期発見の方法はどういうものがありますでしょうか(⑨について、カプセル型のものもございますでしょうか)。

A、大腸がんは、大腸の粘膜から発生しますので、早期発見の最も確実な方法は、内視鏡検査です。専門医が内視鏡を操作して、くまなく大腸粘膜を観察します。疑わしい病変がある場合は、組織を採取して顕微鏡検査(病理検査)で確定診断することも可能です。また、前がん病変であるポリープを切除することもできます。

何らかの理由で通常の内視鏡検査ができない場合は、肛門から空気を注入して、大腸を膨らませた後にCT検査をして、大腸内腔を三次元構築する、バーチャル内視鏡という検査もあります。また、おもに小腸を観察するために開発されたカプセル型の内視鏡を飲み込む方法もありますが、大腸全体をくまなく観察するという確実性の点では、通常内視鏡にはかないません。

Q、大腸がん患者の皆様に対してのメッセージをお願いします。

A、ひとくちに大腸がんといっても、そのできた部位や進行程度、がん以外の合併症の有無、さらに患者さんのおかれた社会的環境など千差万別です。それらを充分把握したうえで、最適な治療を検討し、患者さんとともに実行し、その結果を検証するということが、私たちがん専門医の使命です。過去の治療例を比較してみると、大腸がん手術の治療成績は2005年以降大きく改善しており、着実に成果があがっていることが実感できます。

皆さん一人一人を大切にして、大腸がんから救うことが治療の目的です、また、皆さんの治療経過を検証して、将来の治療に生かすことも大切な使命です。これまで治療させていただいた方々に感謝しつつ、より快適な治療をめざして、これからも進歩し続けてゆきます。