市原有起先生よりご来場の皆様へのメッセージ


市原 有起先生
東京女子医科大学心臓血管外科学講座 講師

 皆様、はじめまして。私は東京の大学病院で心臓外科医として働いております。この度「世界がん撲滅サミット2023 in Osaka」の代表顧問・提唱者であります中見利男さまよりお声かけいただき、本会に参加させていただくこととなりました。
 私の専門は心臓の手術ですのでがん領域は全くの素人です。しかしながら最近は、がんに対する外科的治療をするための術前検査で心臓が悪いことを初めて指摘され、がんの治療の前に心臓の手術が必要となる患者さまも多く見られております。このような時は、その後の主たる治療へなるべく負担がかからない形で心臓の手術を行い、心機能の改善を図るようにしております。医療が複雑になり専門性が高まる一方で、このように領域をまたがって治療を行うケースも多くなっており、医療者はより広い視点で患者さまに向き合っていく必要があると感じています。
 私は心臓血管外科の中でも重症心不全に対する外科治療を専門にしています。お薬やペースメーカーといった内科的治療を最大限に行ってもなお心臓の収縮力が弱く、全身に血液を送れない患者さまが対象で、治療法としては心臓移植や補助人工心臓になります。悪くなった心臓を脳死患者さまから提供いただいたドナー心に入れ替えたり、動かなくなってしまった心臓にポンプ付けて機械の力で全身の循環を維持するというものです。本邦においてこの分野は、2011年に植込み型補助人工心臓治療が保険償還されたことで大きく発展しました。補助人工心臓治療は心臓移植への橋渡しが目的でありましたが、2021年からは移植を目指すことなく人工心臓を付けて残りの人生を全うするDestination therapy(DT:長期在宅補助人工心臓治療)という使い方も始まりました。最近はiPS細胞を含む心臓再生医療の発展も目覚ましく、重症心不全における治療の選択肢は格段に増えております。しかしながら、一方で、その選択・決断はより複雑になったとも言えます。新しい医療のため医療者自身も正確な情報を提供できません。そのような背景の中で、shared decision making(SDM)という考え方が広まっています。これは患者さまと医療者の間で、選択され得る治療内容や予後・リスクを話し合い、意思決定のみならず、その結論に至ったプロセスを双方が重視するというものです。「患者さまが心不全治療で何を求めているか?」私はこの点について心不全患者さまと向き合って参りました。今回はがん撲滅サミットでありますが、SDMに関してはすべての領域でお役に立てるかと思っています。何卒よろしくお願い致します。

●略歴
東京女子医科大学 心臓血管外科学講座
市原有起(いちはらゆうき) Yuki Ichihara
生年月日 1976年8月15日

【学歴・職歴】
1995年3月 成蹊高等学校 卒業
1997年4月 東京慈恵会医科大学医学部 入学
2003年3月 東京慈恵会医科大学医学部 卒業
    4月 東京女子医科大学心臓血管外科 入局
2004年4月 東京女子医科大学大学院心臓血管外科講座 入学
2008年1月 聖路加国際病院心臓血管外科
2008年3月 大学院卒業
2009年1月 東京女子医科大学心臓血管外科(助教)
2010年1月 山梨県立中央病院心臓血管外科
2011年7月 東京女子医科大学心臓血管外科(助教)心臓移植・補助人工心臓
2014年8月 William Harvey Research Institute, Queen Mary University of London, UK留学
2017年9月 東京女子医科大学心臓血管外科(助教) 
2019年2月 東京女子医科大学心臓血管外科(講師)
現在に至る

【所属学会】
日本外科学会
日本胸部外科学会
日本心臓血管外科学会
日本循環器学会
日本人工臓器学会・評議員
日本移植学会
日本心不全学会
日本再生医療学会
日本心臓移植研究会・世話人

【資格】
医師免許証 
博士号学位 
外科専門医・指導医
循環器専門医
心臓血管外科専門医・修練指導者
植込型補助人工心臓認定実施医

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