藤原俊義先生よりご来場の皆様へのメッセージ

藤原 俊義 先生
岡山大学大学院
医歯薬学総合研究科
消化器外科学 教授

 ウイルスと聞くとインフルエンザや最近の新型コロナウイルスなど、病気を引き起こす厄介者というイメージがあります。ウイルスは自分だけでは複製することができず、ヒトの細胞に感染して増殖し、その細胞を破壊することで拡散していきます。
 この「細胞を殺す」という機能に注目して、20世紀初頭から狂犬病やおたふく風邪のウイルスなどをがん治療に使う研究が行われ始め、1970年代のアフリカでは、はしかに感染した悪性リンパ腫の子供の腫瘍が完全に消失したとの報告もあります。ただ、こういった自然界のウイルスは、がん細胞だけでなく正常な細胞でも増えて破壊してしまう危険性がありました。
 そこで、最近の遺伝子工学の技術を応用してウイルスを遺伝子改変することで、がん細胞だけで増殖してがん細胞を殺すけれども、正常細胞では増殖が抑えられて安全性が確保される「腫瘍融解ウイルス」が開発されるようになりました。
 私たちは、子供の風邪症状を引き起こすアデノウイルスをもとに、がん細胞で活性が上がっているテロメラーゼという酵素に反応して、がん細胞のみで増殖してがん細胞を破壊するがん治療用ウイルス製剤テロメライシン(OBP-301)を開発しました。2006年からアメリカで実際にがん患者さんの腫瘍に直接注射して、風邪に似た症状の副作用以外はみられず、安全に治療できることを確認してきました。そして日本でも、2013年から食道がんの患者さんに対して、内視鏡でテロメライシンを腫瘍に投与して、同時に放射線治療を行う臨床試験を進めてきました。
 食道がんは高齢の患者さんが多く、手術は大きな負担となることが予測されますので、手術や抗がん剤治療ができない場合も多くみられます。今までは、こういった患者さんにはいい治療法がない状況でしたが、テロメライシンは基礎研究で放射線治療の効果を強くする作用もあることもわかっていましたので、最初の試験では90%以上の患者さんで腫瘍が消えたり、半分以上小さくなったりする効果が認められました。現在、日本全国の15の施設でさらに多くの患者さんに治療を行って効果を確認する試験が進んでおります。テロメライシンと放射線治療が広く使えるようになることで、今後のがん治療に新たな道を拓くものと期待されています。
 さらに私たちは、がん抑制遺伝子を組み込んだ次世代型テロメライシンも開発しており、膵臓がんなどの難治がんへの応用を考えています。より多くの患者さんにこれらの画期的な治療法が届けられるよう、挑戦を続けていきたいと思います。

●略歴
1985年岡山大学医学部卒業。岡山済生会総合病院などで研修後、同大大学院を1990年修了し医学博士取得。1991年より3年間、米国テキサス大学MDアンダーソン癌センターに留学し、アデノウイルスベクターを用いたがんの遺伝子治療開発に従事する。帰国後、岡山大学病院で臨床と研究に携わり、2010年 岡山大学大学院消化器外科学教授。2011~2019年 岡山大学病院 副病院長。消化器外科領域での腫瘍融解ウイルスの創薬研究や低侵襲な分子イメージング開発が専門。日本癌治療学会理事。

●著書
・「入門 腫瘍内科学(改訂第3版)」南江堂、2020.
・「遺伝子治療MOOK 30」メディカルドゥ、2016.
・「次世代のがん治療薬・診断のための研究開発」技術情報協会、東京、2016.
・「新臨床腫瘍学 改訂第3版」南江堂、東京、2012.
・「先端医療シリーズ20・癌 肺癌の最新医療」先端医学社、東京、2003.
・「遺伝子治療開発研究ハンドブック」エヌ・ティー・エス、東京、1999.

●出演番組
・がん医療最前線(BS-TBS)(2017年2月3日放送)
・おはよう日本(NHK)(2014年1月11日放送)
・サイエンスZERO(NHK )(2008年10月19日放送)
・たけしの本当は怖い家庭の医学(テレビ朝日)(2007年1月9日放送)
・ふるさと発「医療ベンチャーを育成せよ」(NHK )(2004年10月15日放送)
・FNSサイエンススペシャルタモリの未来予測TV(フジテレビ )(2003年2月25日放送)
・クローズアップ現代(NHK)(2002年12月12日放送)
・ワールドビジネスサテライト 21世紀最新医療(テレビ東京)(2001年1月31日放送)
・ザ・スクープ(テレビ朝日)(2000年2月26日放送)
・がん戦争 Part 16(テレビ朝日)(1998年11月28日放送)
・サイエンス・アイ(NHK)(1998年10月8日放送))

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