ヒポクラテス・プロジェクトについて

現在、がん医療を含めた新型コロナウイルスなどの感染症や疾病などの医療全体に未病、予防の概念が新しいテーマとして浮上しています。

これまでにも生活習慣病の改善や運動、栄養による工夫によって未病、予防を実行しようという努力が行われてきたものの、血液検査の結果や体調の変化などの判断で漠然と捉えられてきたため、残念ながら未病、予防自体が個人個人の努力目標に終わっていたというのが実情でした。

ところが、ここにきて強力な武器が現れました。それこそが『腸管免疫細胞』です。腸は栄養分の通り道ですが、その一方で病原菌やウイルスなどの異物が辿り着く場所でもあります。

こうした異物を撃退するために人体の約6~7割もの免疫細胞が腸管に集中しているのです。つまり人間の腸管こそが巨大な『免疫ステーション』なのです。

しかも、この腸管内の『免疫ステーション』には体内から集まった免疫細胞を修復したり、強化するメンテナンスセンターまで存在しております。それが『パイエル板』と呼ばれる小腸の壁の一部に存在する部位です。

このパイエル板内に体内のウイルスや様々な細菌などの異物を取り込んで、腸管免疫細胞と接触させます。これによって免疫細胞は異物を有害な物質と判断し、攻撃対象として学習するのです。

こうした腸管内の働きによって、やがて血液の流れに乗った免疫細胞が体内各所で攻撃対象を発見しては次々に壊滅していく仕組みが本来、人間の体中には存在しているのです。

つまり、近年になってがんや新型コロナウイルスなどの感染症や肥満、糖尿病や認知症、インフルエンザ、肺炎をはじめ、あらゆる病に対して、この腸管免疫細胞が鍵を握っていることが科学的検証によって判明してきたわけです。

逆に腸管免疫が暴走することで自己免疫疾患も起こるということもわかってきましたが、逆説的に考えれば、この腸管免疫をコントロールすることによってがんをはじめとする病気をコントロールしていくこと自体が予防においても治療においても必須ということでしょう。

そこで日本だけでなく欧米の科学者や研究者は、この腸管免疫の実態を把握し、創薬につなげていこうと必死の取り組みを始めております。

たとえば、ヒューストンのテキサス大学MDアンダーソンがんセンター ゲノム医学准教授ジェニファーA.ウォーゴ教授らのグループも腸内細菌叢と免疫療法に対する反応などの調査を開始したところ、多様な腸内細菌叢を持っている患者の方が免疫チェックポイント阻害剤の効果があることが判明。

とりわけ免疫チェックポイント阻害剤の効果のある患者にはCD8陽性T細胞と呼ばれる免疫細胞の密度が高かったといいます。これこそががん細胞をピンポイントで攻撃する免疫細胞なのです。

彼らは、今後は腸管免疫を調整することでがんの発症をコントロールしていくことも検討していくということです。

一方、日本でも上記の免疫チェックポイント阻害剤(オプジーボ)の開発に貢献し、2018年にノーベル生理学・医学賞を受賞した本庶佑・京都大特別教授らのチームは肺がんで、この薬が効く患者と効かない患者を見分ける手法を開発したことを2020年1月30日に発表。

本庶氏のチームは患者のT細胞の状態が年齢とは関係なく個人差が大きいことに着眼。オプジーボを投与する前と投与直後の患者の血液からT細胞を取り出し、細胞の状態と治療成績の関係を分析。

その結果、薬の効果が3ヶ月以上続いた25人のうち24人の血液は投与前から活性化しやすい元気なT細胞の割合が多く、投与後は若いT細胞が増えました。

しかし逆に薬がほとんど効かない患者ではT細胞の機能が低下して疲弊していたのです。

つまり免疫チェックポイント阻害剤(オプジーボ)の効果にT細胞の活性化は欠かせないということが判明したわけです。

つまりオプジーボなどの効果の鍵を握っているのはT細胞の宝庫・腸管免疫細胞ともいえるでしょう。ここを平常時から、いかに活性化するかということが、がん予防と治療においても重要なポイントなのです。

こうしたエポックメイキングな出来事や事実の解明によって日本でも次々にアクションが起きています。

たとえば、これまで約1200人の健康な人々の腸内細菌を集めてきた国立医療基盤・健康・栄養研究所が5年間で5000人規模に拡大し、世界最大級のデータベースを構築。これによって日本でも病気予防に向けた基盤が出来上がるのです。

さらに株式会社ヤクルト本社中央研究所では、乳酸菌プロバイオティクスが整腸ばかりか全身の免疫にも重要な影響を及ぼすとの観点から様々な健康と腸に関する商品の研究開発を先駆的に行っています。

特に同社の中央研究所は2011年に前立腺がんの予防効果が期待されているエコールという物質を作り出す腸内細菌を発見しているほか、同社の開発したL.カゼイシロタ株は感染予防、がん発症リスクの低減作用をもたらすことが判明。こうした商品開発にいち早く着手していることも見逃せません。

このほか株式会社明治は仏・パスツール研究所と共にLB81乳酸菌が腸管免疫細胞に働きかけて細胞の老化を防止。腸の炎症を抑えるとの研究結果を2019年12月11日に発表しています。

またキリングループも腸管免疫細胞の研究を中心としてヘルスサイエンス事業に力を注ぎ始めております。

たとえばウイルスやがん細胞増殖の抑制効果を持つインターフェロンαという物質がありますが、これを生産するプラズマサイトイド樹状細胞(PDC)は長年にわたり乳酸菌によって活性化することはできないと言われてきました。しかしキリンは2010年に、このPDCを活性化する乳酸菌を発見し、これを『プラズマ乳酸菌』と命名。

ちなみに、このPDCにはNK(ナチュラルキラー)細胞、キラーT細胞などを活性化させる、いわゆる免疫細胞の司令塔の役割があるため、今後はこうしたプラズマ乳酸菌を使用してPDCをコントロールすることで未病・予防事業を強化する方針を2019年4月25日にキリンホールディングスも発表しております。

さらにTOTO株式会社も大腸がん予防のためにトイレに検査機能を持たせようというチャレンジも開始しています。

こうした免疫力や腸内細菌チェック機能を開発できれば、将来的に腸管免疫細胞の現状分析が個人でも自宅で可能になってくると考えられます。だからこそ、がん撲滅サミットは将来的に自宅をホームケアセンターに変えるため、住宅環境を整備する国土交通省にも後援をいただいているのです。

そこで2025年をがん予防薬開発元年にしようという目標を掲げている『日米がん撲滅サミット2020』としても、これを具体的に実行に移して参ります。

その第1弾として、2020年よりがん・新型コロナウイルスなどの感染症等疾病予防の重要な柱として腸管免疫細胞を育成し、いよいよ日本でも本格的に推進していかなければならないと考えています。

ここで思い出していただきたいのです。
そもそも、がんをカニにたとえてキャンサーの語源を生み出したのは、古代ギリシャの医学の父ヒポクラテス(BC460頃~375頃)であり、彼は乳がん患者のがんの塊を切り刻んで、その形状をスケッチした際に「カニのような」という意味で「カルキノス」と記述しました。

ここから、がんと人類の克服に向けた本格的な戦いの幕が開けたわけです。

そのヒポクラテスは風邪の予防対策やはしか治療、公衆衛生によるペスト対策のほか健康のための歩行推奨やハーブ療法による治療など現代でいう予防と低侵襲治療に取り組んだ人物です。

とりわけ彼の信条は『病気は人間が自らの力をもって自然に治すものであり、医師はこれを手助けするものである』というものです。また『人間は誰でも体の中に百人の名医を持っている」という言葉も残しています。

つまり人類が病に勝つためには免疫力をいかに高めるかが重要だと示唆していることになります。
 その証拠にヒポクラテスはすでに古代ギリシャ時代から次のように看破していたのです。

それこそが『すべての病気は腸から始まる』というものです。

今、我々はヒポクラテスの、この言葉に立ち返り、新しいがん・新型コロナウイルスなどの感染症及び疾病予防戦略として『日米がん撲滅サミット2020 ヒポクラテス・プロジェクト』をスタートさせて参ります。

たとえば、『日米がん撲滅サミット2020』顧問であり、制御性T細胞の発見者であるノーベル賞候補の大阪大学大学院免疫フロンティア研究センターの坂口志文先生、世界的な免疫学の権威で順天堂大学医学部 特任教授 奥村康先生、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 理事長 米田悦啓先生、さらに株式会社ヤクルト本社中央研究所の皆様をはじめとする有力な方々とコラボレーションを実施。

すでにこうした先達と栄養面においても、個人個人の不足している栄養素を分析したうえで腸管内の特定の免疫細胞を活性化させる研究を加速化させていくことを互いに確認しております。

さらには坂口志文先生のがん予防及び治療薬開発においても支援して参ります。

ぜひとも、オールジャパン、チームマンカインド(人類)の力で、『ヒポクラテス・プロジェクト』を開始して、科学的検証に基づいた副作用のないリーズナブルながん・新型コロナウイルスなどの疾病予防体制の構築を目指して参りましょう。

どうぞ本プロジェクトに皆様のお力添えをいただけますと幸甚に存じます。
何卒よろしくお願い申し上げます。

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