山上裕機先生よりご来場の皆様へのメッセージ

山上 裕機(やまうえ ひろき)先生
和歌山県立医科大学 探索的がん免疫学講座教授 ・ 紀和病院院長、和歌山県立医科大学名誉教授、和歌山県立医科大学 特別顧問

膵癌治療の現況とみなさまへのメッセージ
 近年の膵癌手術の進歩はめざましく、動脈や門脈などの血管まで癌が進んだ患者さんでも、まず適切な抗がん剤で治療することで、手術が可能になってきました。血管を合併切除してつなぐといった難度の高い手術ですが、安全に行うことができています。手術手技の進歩はめざましいものがありますので、決してあきらめる必要はありません。
 また、膵癌に対する抗がん剤の開発が行われ、肝臓や腹膜に転移があるような患者さんでもひじょうにうまく治療ができるようになりました。
 抗がん剤治療と聞くと、『副作用が強くて、つらい治療』と思われる方が多いでしょう。しかし、吐き気を予防したり、貧血や白血球減少を予防する対策が進んでいますので、生活の質を落とすことなく外来で治療が続けられるようになりました。
 さらに、われわれは、新しい膵癌治療として40年にわたり免疫療法に取り組んできました。免疫療法には免疫のアクセルを踏んで免疫を強くする方法と、癌患者さんでは免疫にブレーキがかかっていますので、そのブレーキを外す方法の2つがあります。
 近年、免疫のブレーキを外すニボルマブ(オプジーボ、キイトルーダ)などの免疫チェックポイント阻害剤が肺がんや特殊な皮膚の癌などで使用され、よく効くと言われています。しかし、効く率(奏効率といいます)は2割程度でまだまだ満足できるものではありません。さらに、膵癌では約2%の患者でしか免疫チェックポイント阻害剤のキイトルーダが使用できません。
 以前よりわれわれは免疫のアクセルを踏む治療法を研究してきました。癌抗原の解析からペプチドワクチン療法を行ってきましたし、そのペプチドの情報を免疫担当細胞であるT細胞に引き渡す細胞を樹状細胞といいますが、膵癌患者さんに対して、ペプチドで刺激した樹状細胞を用いた新規治療法の医師主導治験を行っています。
 膵癌に対する免疫療法は、まだまだ開発途上です。今後、免疫のブレーキを外す治療とアクセルを踏む治療を併用することで、難治癌である膵癌の治療が格段に進歩すると思っています。
 以上より、治療が難しい膵癌ですが、手術手技の進歩、抗がん剤の進歩、新しい治療法である免疫療法の開発など医学は日々進歩しています。近いうちに膵癌は、『治る癌』になるでしょう。


●学 歴
1981年 3月 和歌山県立医科大学 卒業

●略 歴
1981年 4月 和歌山県立医科大学附属病院 診療医
1985年11月 和歌山県立医科大学 消化器外科 助手
1991年 8月 和歌山県立医科大学 消化器外科 講師
1992年 9月 アメリカNIHの国立がん研究所(NCI)にてVisiting Associate
1994年 4月 和歌山県立医科大学 外科学第2講座 講師
2001年 6月 和歌山県立医科大学 外科学第2講座 教授 (~2022年3月まで)
2006年 4月 和歌山県立医科大学附属病院 副院長 (~2010年3月まで)
2014年 4月 和歌山県立医科大学 医学部長 (~2016年12月まで)
2017年 4月 和歌山県立医科大学附属病院 病院長 (~2021年3月まで)
2019年 9月 和歌山県立医科大学附属病院 膵がんセンター長 (~2022年3月まで)
2021年 4月 和歌山県立医科大学 副学長 (~2022年3月まで)
和歌山県立医科大学 次世代医療研究センター長 (~2022年3月まで)
2022年 4月 和歌山県立医科大学 探索的がん免疫学講座 教授
2022年 4月 紀和病院 院長

●主な学会活動
1. 日本外科学会:      代議員,
2. 日本消化器外科学会:   第75回総会会長(2020年12月開催)、理事(2019年まで)
3. 日本臨床外科学会:    評議員
4. 日本肝胆膵外科学会:   第26回学術集会会長(2014年6月開催)
                監事(2020年~), 理事(2008~2020年まで), 評議員
5. 日本膵臓学会:      第49回大会会長(2018年6月開催), 理事(2013~), 評議員
6. 日本癌学会:       評議員
7. 日本癌治療学会:     代議員
8. 日本バイオセラピィ学会: 理事長(2011~2016年まで), 理事(2010年まで), 評議員
9. 日本メディカルAI学会:  顧問
10.日本がん免疫学会:    理事, 第25回総会会長(2021年7月開催)
                     上記を含め 計44学会・研究会の役員として活動

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